企業が少年少女の「親」代わりに!「職親プロジェクト」
罪を犯した少年少女への支援はどうあるべきか?③
先日は八王子鑑別所や多摩少年院に視察に行ってきましたが(詳しくは以前のブログをご参照ください)
今回は、民間企業による少年院や刑務所出身の少年たちの受け入れを行っている「職親プロジェクト」について、日本財団の担当者の方よりご説明を受けました。
プロジェクトの概要は笹川陽平氏のブログをご覧ください
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「再犯防止について」―職親プロジェクト―
http://blogos.com/article/117280/
日本財団には、この勉強会以前から推進、注目されてきたプロジェクトがある。この分野で実績のあるお好み焼き専門店『千房』の中井政嗣社長の協力を得て実施している『職親プロジェクト』である。
単に『再犯防止』のお題目を唱えても問題解決にならない。職親プロジェクトは、中小企業の経営者が親代わりになり、孤独な出所者を雇用して更生させるプロジェクトである。現在20社の中小企業経営者が参加。中には昔、少年院の世話になった人もおり、全員が社会のために多少でもお役に立ちたいとの志を持つ。
日本財団と企業が協力した『職親プロジェクト』は、少年院、刑務所で求人活動を行い、企業が職場を提供する
リンク先より引用
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元々は帰る場所のない、自立の難しい方を福祉に繋げるという考えがあったそうですが、単に福祉に繋げるだけでは問題解決にならない、若い出所・出院者は働ける力のある方が多い事からも就労支援の必要性に着目。
最初は農業を主にしたプロジェクトでしたが、若い方々をそれだけで養っていく事は難しく、企業との連携を行い、就労に繋げていく道にシフトしていったそうです。
その後、出所者や出院者だけで運営する居酒屋が出来ないか?と日本財団が各居酒屋メーカーや飲食店に提案するものの、上手くいかず頓挫。
その中でお好み焼き専門店・千房株式会社が既に受け入れを行っているとの話を聞き、相談、協力し、現在に至ったとの事です。
●活動理念は「ひとりをみんなで支える」
必要なのは出所者、出院者が受け入れられる環境づくり 中間支援の必要性について
矯正施設在所中の更生支援のプログラム、出所、出院後の就労体験及び教育を提供する事で、円滑な社会復帰を支援すると共に、再犯率低下の実現を目指します。
出所、出院後の中間支援として、先生・保護司、職親企業、NPO、再チャレンジ奨学金制度、カウンセラー配置と様々な角度や立ち場の方からの支援を最長6か月間行っていきます。
中間支援機関終了後も中間支援施設での月一回のフォローアップ教育および相談など、継続的な支援を合計一年間行っていきます。
プロジェクト修了者同士のネットワークも考えているようです。
●対象とする出院者・出所者(抜粋)
・自立・更生の意欲の高いもの
・入院・入所に係る事犯が初入、もしくは犯罪傾向の進んでいないもの
・下記に該当しないもの(例外有)
死刑、又は無期の懲役・禁錮がある罪を犯したもの
薬物事犯者
強制わいせつ、強姦、準強制わいせつ、準強姦事犯者
満14歳未満の者に対して罪を犯したもの
暴力団関係者及び暴力団関係者でなくなってから5年を経過しないもの
その他
●条件
・企業の条件→受け入れを行っている事を公表
・出院者、出所者の条件→出院者、出所者である事を社内で公表。
これにより、説明会に来た企業、また関心があり問い合わせてくる企業でも、プロジェクトに参加が難しいという企業もあるそうです。
また、男女比の問題もあり、特に、女性は公表に対して抵抗も強く、結果、男性プロジェクト参加者の割合が高くなることに繋がっています。
●待遇
元々の日本財団の制度では、中間支援プログラム参加者に一名につき月8万円を6か月間助成していました。
現在は、法務省が更生保護における就労支援という事で、もともとの6か月月8万円に加えて、7か月目からは12か月目まで3か月に1回12万円支給しています。
協力雇用主に対する刑務所出所者等就労奨励金 法務省HP
参加企業の負担減措置と言う点からも考えられています。
●2013年2月~2015年11月末までのプロジェクト実績
目標に
修了率(6か月):80%
職場定着率(2年以内):40%を掲げています。
就労体験参加者数:40名
就労体験修了率(約6か月):16名(40%)
修了後の雇用継続率:11名(27.5%)
まだ始まったばかりの制度であり、途中で居なくなってしまう子、やめてしまう子も多いなど課題も多くあるそうです。
以前の視察でも感じましたが、彼らは自己肯定感の低い子、職場定着率の低い子、家族から愛情を注いでもらった感覚が薄い子も多く、
施設内外での共通の課題と考えられます。
●親元からは引き離す
先日は多摩少年院で親御さん向けの説明会も行ったと聞きましたが、職親プロジェクトの考えの一つに「親元に帰さない」があります。
どういった事かと言いますと、親元で昔の悪い仲間に合う、もしくは家庭環境等の酷い環境に帰してしまうと、同じことを繰り返す可能性があるからとの事です。
難しい選択ですが、結果を見守っていきたいですね。
●自治体の例
奈良県ではこのような取組も行われています。
全国都道府県で初めて保護観察対象者の雇用に取り組みます 奈良県HP
http://www.pref.nara.jp/33188.htm
無職の保護観察対象者の再犯率は有職の保護観察対象者の再犯率の4倍にのぼり、また、昨今の厳しい経済雇用情勢により、保護観察対象者の就労先の確保が困難な状況にあります。
このような状況のなか、奈良県では、保護観察対象者に一定期間の就業機会を提供し、その業務の経験を踏まえ民間企業等への就職につなげるとともに、民間企業、市町村の保護観察者の雇用に向けた自主的な取組を促進することを目的として、全国都道府県で初めて保護観察対象者の雇用に取り組むこととしました。
以前は、地域に密着している中小企業や町工場等で、地元の先輩後輩、友人ネットワークなどを活かし、個別個別の企業が、また、地域社会が出所・出院後の少年少女たちの面倒も見て、就労等の支援を行っていました。
そうした縦横の関係も薄れ、長引く不況で中小企業の体力も衰え、地域社会の縁が希薄になっている昨今、では、職親プロジェクトのような事業展開の支援を行政も積極的にしていく必要もあると思っています。
一方で、職親プロジェクトはまだ始まったばかりで、担当者も認識されているように課題も多く、これからも試行錯誤をしながら、運用していかなければならない事業です。
しかしながら、私はこの事業の推移を見守るとともに、大田区や区内で、この理念を活かし、地域発展に繋げていけないか?考えていかなければならないと思っています。
●被害者と加害者
被害者、その家族、友人が彼らを許せない、それは当然の感情かもしれません。
更生保護の話になると、どうしても被害者のお話も避けては通れません。
中間支援という面でいえば、加害者だけではなく被害者への社会復帰支援も同様に力を入れる必要があり、同時に、被害者へのケア、継続的な支援、就労以外の面での社会復帰支援。
加害者の償いも必要です。
一方で、出所者、出院者を社会復帰させ、再犯を防いでいく事は、結果的に新たな被害者を減らし、社会の安定を作る事にもなります。
彼らが更生し、納税者として、地域・社会の一員として貢献をしていきます。
人によっては結婚し、子供を産み育て、その子がまた地域社会人の一員として、社会に貢献していきます。
安定的で継続的な社会を作っていく為には彼らの更生も必要不可欠になります。
罪を自覚し、償う事。
そのうえで社会復帰、更生の意志があるものには社会は手を差し伸ばし、やり直す機会を与える事。
これこそが、再チャレンジではないかと思います。
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