もう一度やろう大田区の演劇祭!「下丸子演劇ふぇすた」
皆様は以前、大田区で「演劇祭」が行われていたことはご存知でしょうか?
恥ずかしながら私も最近知りましたが、「下丸子演劇ふぇすた」という名の演劇祭が、平成元年(1989年)から(1995年)までの7年間、大田区民プラザで、演劇への啓蒙と振興を目的に小劇場系※(注1)の演劇祭として開催されていました。
●経過と実績
現在でも活躍している劇団も多く参加しており、入場者数からも当時の一大イベントで合った事は間違いありません。
一方、時代の流れや課題もあり、7回目の開催以降は開催されていません。
同時期に都内でスタートした「下北沢演劇祭」や「池袋演劇祭」が現在も継続している事を考えると、下丸子演劇ふぇすたの開催が行われていない事は、区の文化事業にとって、大きな損失と考える事が出来ます。
●当時の課題
当時、大きく3つの課題がありました。
1、立地やコンセプト
大田区、下丸子という立地を活かしきれていない点や、演劇祭のコンセプト、意義が明確ではなく参加劇団、団体の募集などに苦慮をしていました。
演劇祭のコンセプトを他の自治体や団体がどのように行っているのか?
また、コンセプトやテーマはどこまで決める必要があるのか?
再開に向けて映画祭や演劇祭の情報収集が必要になります。
会場確保も、区民プラザのみだった当時は難しくなっていったと聞きます。現在はアプリコ、PiOなど多くの施設もあります。
上手く活用して課題を解消できればと思っています。
2、固有の顧客を掴むための対策
出演劇団や演目のテーマにも一貫性やコンセプトが薄く、その為に「ふぇすた」固有の客を掴むことが難しかったといわれています。
これは演劇の顧客確保に関係する課題でもあると思いますが、劇団、役者のファンや家族・友人、役者仲間といった身内以外の方にどれだけ演劇を見てもらうか、足を運んでもらうかは大きな課題と言われています。
そうした、身内、役者・劇団ファン以外の方が見たいと思うとっかかりや、多くの市民に演劇に触れる機会を作る事が行政の関わる啓蒙・振興策として重要なのではないでしょうか?
私も観劇に足を運びますが、知人・友人の所属、または出演する公演である場合は殆どで、そうでないと情報収集もままならないのが実際のところです。
気軽に足を運び、観る事の出来る観劇文化があれば、すそ野も広がります。
スポーツ同様、子供の頃からの体験も重要になってくるのではないでしょうか?
3、事務局運営の困難さ
テーマやコンセプトが明確でない中で、開催する事が目的になってしまった点と、職員が演劇界の情報収集、劇団選択、広報対策などを一手に引き受ける事が困難になっていきました。
これは、2とも共通する部分のある課題です。
●演劇祭の再開への期待
ふぇすた終了後、文化振興協会の演劇への取組も矮小化されていき、学校など一部でミュージカル鑑賞、演劇鑑賞は行われていますが、区全体の事業としては目立った取り組みは行われなくなっていきました。
そうした中で地域に演劇文化を定着させる為の地道な取り組みが必要であるとの認識の下、下丸子演劇ぷろじぇくとが立ち上がりました。
下丸子演劇ぷろじぇくとは鑑賞だけでなく、体験型ワークショップや講座を通じ、区民に演劇を楽しんでもらうためのものとして始まり、演劇ふぇすたにも参加していた劇団山の手事情社が大田区文化振興協会と共に行う事業となります。
平成28年度からの3か年計画となっており、一年目は稽古体験ワークショップ、2年目は演劇的教養のススメ、3年目は区民と創る舞台芸術というテーマでプログラムを開催します。
下丸子×演劇ぷろじぇくと2016
下北沢、池袋。また中央線沿線などで演劇やサブカルチャー文化がさかんな印象がある一方、大田区ではまだまだ「文化」の印象が弱いように感じています。
演劇祭を開けばそれでよいというわけではありませんが、昨年度から新たに創設された文化振興課の取り組む、一つの「大田区の文化振興策」の象徴的事業として演劇祭の再開に注力していただきたいと考えています。
区民参加の劇も公演として行われたりすると、いいかもしれませんね。
また、劇団の方にとってみると、以前にも同様の課題があったようですが、コンセプトが見えにくく参加する意義を見出しにくい部分もあると思います。
当時もそういった指摘もあったようですが、例えば、大田区内の小中学校向けの公演権といった、区内の教育や地域団体向けに公演を行えるなどといった事がある、区の大きなイベントで公演を行えるなど、大田区とタッグを組んで活動できるなどの何らかの特典・メリットも必要でしょう。
●文化資本の再分配
最後に、文化的・社会的経験の格差について
以前、本会議で取り上げましたが、文化や社会体験を得られない事も子供の貧困の問題の一つです。
「おおた子どもの生活応援プラン」大田区子どもの貧困対策に関する計画の基本的な考え方で、大田区は貧困が子どもにもたらし得る機会の喪失を3種類の「剥奪」として分類しました。
経済的状況により子どもの学びや成長に必要な物が買えない「物質的剥奪」、子どもとして当たり前のように得ておくべき経験や、そこで得られるはずの人間関係が形成できない「社会的剥奪」そして、それらにより育まれるはずの信頼感や自己肯定感などが持てない状態「自己形成の観点からの剥奪」の3つです。
衣食住を満たす事だけではなく、文化、スポーツ体験や社会的な経験についても、子どもが本来得るべきモノであり、それが得られないという事は子供にとって当然の権利が「はく奪」された状態であると言えます。
子どもの貧困を語る上で欠かせないテーマでもあると、大田区も新たに定義づけたものと認識しています。
文化の体験、経験、行政の行う文化振興というものは、一部の方だけの高尚な趣味やそこに携わる方だけのものではなく、市民がみな体験し、振れるようにする事ではないでしょうか?
福祉、教育の面からも今後も文化振興策に力を入れていきたいと思っています。
以前のブログ
●文化的・社会的な経験の格差について
→区内の教育、および文化的・社会的経験の格差について
●予算特別委員会での質疑
→演劇・路上パフォーマンスを気軽に楽しめる大田区へ!
注1:小劇場演劇とは 1960年代から急速に人気を博したジャンル。俳優を中心として結成されていた「新劇」に対し、演出家を中心に組織された集団で、劇場の大小ではなく、カンパニーという小さな組織で、演劇を楽しむライフスタイルを体現させたものと言われている