罪を犯した少年少女への支援はどうあるべきか?② 多摩少年院を視察しました
前回の八王子鑑別所に続き、多摩少年院を視察してきました。
前回のブログ
罪を犯した少年少女への支援はどうあるべきか?~八王子鑑別所を視察しました~
少年院は、家庭裁判所の審判により、保護処分として少年院送致決定を受けたおおむね12歳以上20歳未満の少年を収容し、生活指導・職業指導・教科指導等を中心とした教育・訓練を行い、社会生活に適応できる健全な少年に育成することを目的とした法務省の施設です。昔は矯正院と呼ばれていました。
●多摩少年院
多摩少年院は関東近県1都10県において、第1種少年院送致決定を受けたおおむね17歳以上の男子少年を収容する施設です。
また、全国52院で最も古い歴史を持ち、収容規模も全国NO.1の院でもあり、収容定員は174名、12月10日時の収容人数は156名で収容率は89.7%。
現在、全国ではだいたい2500~600名を収容しているそうですが、多いときは全国で4000~6000人収容していたこともあるそうです。
少子化の影響もあり、収容人数は近年、減少傾向にあります。
●少年院に入所する少年たちを取り巻く状況
・年齢
年齢については、多摩少年院は17歳から20歳までの計156名を収容していますが、割合でみると18歳が32%、19歳が40%突出しています。
・学歴について
学歴のデータは全国平均と相違がみられます。
全国のデータでは中学卒業者が29.4%、高校中退者が34.8%、高校卒業者が3.7%、大卒・専門学校等のその他が32.2%となっていますが、多摩少年院では中学卒業者の割合が19%、その他の割合が19.2%と全国平均より低く、高校中退者が46.8%、高校卒業者も14.1%と全国平均より多くなっています。
関東1都10県でのデータとして、とりわけ高校卒業者や中退者が多い事はこの問題を考えるうえで重要になってくると思います。
・保護者の状況について
全国平均と多摩少年院のデータは近似しているのですが、実父母が3割、実父のみが1割、実母のみが4割近く父母どちらかが義理の親の場合は併せて1割となっています。
シングルマザーの家庭のみで、入所者数でも両親のいる家庭を上回っており、また、父母どちらかしかいない家庭も併せると約5割、半分となっております。
母子家庭の増加により、少年院に入ってくる子供たちの家庭の母子家庭数の割合も増えています。
面接に来る方のお話を聞いても、お母さんたちは疲れているそうですが、少年院に入る子供たちを取り巻く現状は、別の国、世界の話ではなく、社会状況と密接にリンクしている事が判ります。
子供だけにではなく親への支援も必要であり、非行を行う少年たちの現状を改善していく為には、社会状況の変化に応じた現状の把握と適切な支援、対策強化が必要である事が判ります。
尚、父母どちらがいない家庭の少年が必ず非行に走るというわけではなく、実際に院でも、教育において両親が揃っていないという事は非行を行っていい理由にはならず、その中でも頑張っている方は多くいる事を指導します。
・院に来る前の就業の有無について、
院に来る少年のうち、無職が約4割、無職学生が約2割となっており、併せると6割近くになります。
残りの4割の少年は就業をしていますが、一定の職場への定着期間は短く、職を転々をしている少年も多くいます。
コミュニケーションの課題等、それぞれ課題は異なりますが、仕事の定着が課題になります。
・知能指数について
知能指数のデータは多摩少年院ではIQ80~120のうち、IQ90~99が40%、100~109が28.2%と大きな割合を占めています。
全国平均では80未満から100~109までのそれぞれが概ね20%前後になっており、異なる割合となっています。
ですが、概ね80~120内に全少年が収まっており、IQが突出して高い少年、低い少年は少ないのが現状です。
・保護処分歴
保護処分歴は、傾向として全国平均と近似していますが、保護観察処分を受けた事のある少年は約60%と高く、児童自立支援施設入所経験者は約5%となっています。
少年院に初めて入る少年は85%前後、再入の少年が15%前後となります。
問題行動歴については、全国平均では9.5%の暴走族が多摩少年院では32.7%と非常に高くなっているのが目立ちます。
主たる非行について
殺人のような凶悪犯は少年院ではなく刑務所(少年刑務所)に送られる事例が多くあります。
多摩少年院の場合、わいせつ、強姦と言った性非行は全国平均より共に高く、併せると10%を超えます。
全国平均と同様に傷害、窃盗が高くなっていますが、一位は全国平均では5%しかない詐欺が25.6%と高く、多摩少年院入所少年の非行の中で、傷害(15.4%)、窃盗(23.1%)を超える一番多い割合となっており、内容としてはオレオレ詐欺等の特殊詐欺、誰か、また組織立って行われる詐欺行為の一部に加担している事例が多くあります。
お金の受け取り、引き出し等一番、捕まるリスクの高い役目を、全体の犯罪者が被害者から不当に取得する金額から比べると、決して高いとは言えない報酬で、まさに鉄砲玉のような扱いを少年たちが受けている事例もあります。
少ない労力で高額のお金を手にしてしまう犯罪が増加してきてしまった影響もあるかと思いますが、背景には雇用の不安定化、若者の収入の低下、若者を巡るコミュニティの希薄化の影響もあるのではないかと考えられます。
加害者少年たちが犯行に加担する理由を「お小遣い感覚」とも表現されます、そして犯罪に加担することに当人にも大きい責がありますが、果たしてそれだけでしょうか?
・矯正教育の流れ
約11か月間、経過を見ながらなので、早まる事や遅くなることもあります。
非行に対する反省を深めると共に、社会生活に必要な力をつけさせます。
保護者の協力も求めたうえで、少年一人一人にあった教育プランを作っていきます。
少年の成長を促しつつ、一人一人が抱える問題、性格や事情に適応した対応、処遇の個別化を行います。
この年齢だから、これは必ず知っているだろうは通用せず「ここで教えなければこの先誰も教えてくれないだろう」という意気込みで、
指導を行っており、その中で感じられるのが「褒められ慣れていない」少年が多く、誰かに認められ、承認を受けた経験が少ない子が多いそうです。
怒られたり、虐待を受けて育ってきた子供を叱っても矯正の効果は薄く、少年たちの自己肯定感の低さも課題として感じられています。
・被害者心理指導
ここ10年ほどで行われている活動ですが, 生命のメッセージ展等、被害者支援団体の協力を得たうえで非行によって重大な被害を被害者に対して与えた少年に対して、個別プログラムを実施しています。
償いに向けての特別プログラムとも呼び、被害者、遺族や家族の手記、講演などを行います。
少年たちの中には涙を流して聞く少年もいます。
・生活指導と職員体制
少年院に来る少年たちは大人への不信感が強く、心を開かせることが重要になってきます。
職員が365日、ずっと一緒にいる傍にいる大人がいる事、相談しやすい関係を作っていく事が重要であり、大人への不信感が強い少年に対して、その考え方、人間関係に踏み込み指導を行うためには、職員と少年の間に信頼関係が成立している事が必要条件になります。
少年一人一人に「担当の先生」をつけ、集団、クラス単位の担任の先生と少年一人一人の担当が別に存在し対応を行っていきます。
成績評価を都度行い、担任の先生が少年一人一人のプランを立てる方針になっていますが、反面、勤務時間が長く、長時間労働が行われています。
交代制で宿直も行っており、職員朝礼で情報の共有、少年への手紙一つをとっても、職員同士での情報の共有に努めます。
少年に寄り添おうという職員であればあるほど、個人の負担が多くなり、定時に帰る事は稀との事でした。
また、施設の補修もままならないと、全体の予算も足りているとは言えないそうです。
余談ですが、検食と言う制度もあり、少年が食べる前に同じ食事を院長以下、施設幹部が食べ、色合いや味等をチェックします。
・職業訓練&学習支援
数年前より少年たちの「円滑な社会復帰を促し、再犯の防止につなげる」為、文部科学省、法務省によって刑務所や少年院の収容者らが施設内で「高校卒業程度認定試験」(旧大検)を受けられるようになりました。
通常の試験日と同じ日に行われます。
学歴の項でも触れましたが、高校中退、中卒の少年入所者は少なくありません。
また、出院後を考えれば、大学受験、就職だけではなく、専門学校進学についても高卒と同程度の学力を必要とする場合が多く高校卒業資格取得には大きな意味があります。
また学習支援に際し、実際に職員が指導に当たった所、小学生レベルの理解で止まっている少年も多いそうです。
しかしながら、院において教育の環境と指導を行った所、勉強によって伸びる子も多くいます。
子供たちの成長の可能性は無限に、平等にあり、その成長が疎外されている環境があるのではないでしょうか?
成長の阻害から来る劣等感やコミュニケーションの課題、進学、就職の困難さが非行の原因の一つとなるなら、それは個人の責任だけに帰結せず、社会にも大いに責任はあるのではないでしょうか?
また、職業訓練にも注力しており、溶接・機械、技能、情報処理、様々な公的資格について訓練・学習の機会が与えられています。
私も見学させて頂きましたが、資格取得の為の授業、敷地内でフォークリフトの運転訓練等、様々な行われていました。
情報処理資格では受講定員一人一台PCが用意され実習も行われています。
資格を取得した少年に対しては、全少年の前で校長から表彰も行われます。
資格取得だけではなく、向上心、自己肯定感をつけさせる目的もあります。
社会復帰支援、キャリアカウンセリングも行っています。
ハローワークの職員にも月に一回、定期的に院に来てもらい、協力関係を構築、院内にいる間に就職、採用面接も受けてもらう場合もあるそうです。
民間企業の取組として、務所や少年院を出た人に働く場と住まいを提供しする取組、「職親(しょくしん)プロジェクト」があります。
罪を犯した若者の支援を個人ではなく、社会の問題として捉えていく必要があるのではないでしょうか?
職親プロジェクト
再犯させぬ、願い 「出所後に定職を」 企業・業種拡大
・保護者に対する教育の求め方
保護者も参加をしたうえで、子供の成長・変化を見てもらいたいとの事でした。
非行少年を持つ親の会という会もあり、保護者同士の連携、コミュニケーション強化にも力を入れていきたいそうです。
・出所後の受け入れ態勢
少年院だけの努力では難しく、家族、地域、社会、企業の協力が必要不可欠です。
少年たちに税金を納める立場になり、頑張っていく意識を根付かせるためにも特に地域の力は本当に重要で、更生保護の役割が大切になってきます。
・少年院の在り方
刑務所のようなコンクリートの壁ではなく、少年院は塀によって囲まれていますが、院は外部の社会や地域との交流が少なく、少年達の事情もなかなか外からは見えてきません。
だからこそ、開かれた少年院にしていきたいとのお話でした。
その為には職員も、そして中にいる少年たちも見られているという意識を持つことが重要であり、その事で組織が磨かれるとの意気込みを聞かせて頂きました。
開かれた院にしていきたいという意気込み?にちなんで、今回、視察に伺うにあたり、職員さんがイラストを描いてウェルカムボードを作成してくれました。
多摩少年院だからTAMAちゃんなのでしょうか?
素敵なお出迎えありがとうございました!
誤解せずに頂きたいのですが、話を聞いている中で私が率直に思ったのは、加害者、被害者と違い、責任の有無も異なるものの、児童養護施設入所者や虐待を受けてきた子供たち等と共通点も多いのではないかとの事です。
彼らもまた、多くの場所で成長を阻害され、家庭や社会から自己肯定感を得る場を奪われています。
次以降のブログで触れますが、通信教育高校でも同様に感じました。
彼ら彼女らに必要なのは、環境と指導であり、社会が子供たちの現状、未来に責任を持って行かなければならない。
「人の心を大事にしない世界を作って、何になるんだ!」とZガンダムで主人公のカミーユが述べていましたが、杓子定規、大多数に当てはまる枠組みではなく、一人一人に寄り添う、そうした環境、社会を私達大人は、若者達の為に作り上げていかなければなりません。
多摩少年院の入口から施設までのこの坂は「地獄坂」と呼ばれているそうです。
いつか、この坂が地獄ではなく、罪を反省し、やり無し、再び生きる更生の為の坂である。と、そう認識されてほしいと切に願います。
女子少年の為の婦人補導院や少年刑務所、医療少年院や民間の取組等、お話を聞きに行きたい先はたくさんあります。
今後も引き続き、この問題を追いかけていきます!
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大田区議会議員 おぎの稔
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