罪を犯した少年少女への支援はどうあるべきか?~八王子鑑別所を視察しました~
様々な困難や課題を抱えた方たちの支援を区政におけるメインテーマの一つとして、掲げている事、私自身が若者(29歳)である事もあり、
今回は、罪を犯した少年たちの実態・支援について、八王子鑑別所に行って見聞きしてきました。
所長の小林万洋様のお話もお聞きしました。
「加害少年には、自分たちと同様に被害者も、多くの人との関係性の中で生きており、その事を罪を犯した少年たちにしっかりと認識してもらい、
他人や自分を傷つける事は、その多くの人を傷つける事である事を知ってもらう必要があるとのお話も頂いました。」
●少年鑑別所とは
少年鑑別所は、主として家庭裁判所から観護措置の決定によって送致された少年を収容するとともに、非行の原因を解明して処遇方針を立てるための施設です。
このほか、非行及び犯罪防止の専門機関として、青少年が抱える悩みについて、ご本人やご家族、青少年が関わる悩みについて、ご本人やご家族、学校の先生などからの相談に応じています。
●法律改正
H26年6月4日成立した少年院法・少年鑑別所法によって、鑑別所の法的な立ち位置、機能が強化され、業務がより明確に。
H21年の広島少年院事案※の影響もあり、少年の権利義務・職員の権限が明確化されました。
施設運営の透明化、不服申立制度の整備、保健衛生・医療の充実も掲げられ、今後、少年鑑別所を巡る環境は変化をしていくと考えられます。
※職員が収容少年を暴行していた事件
●少年事件の分類
家庭裁判所の審判に付される少年は
●犯罪少年 満14歳以上で罪を犯した少年
●触法少年 満14歳未満で該当する行為を行った少年(満14歳未満の少年については刑事責任を問わない)
●ぐ犯少年(将来,罪を犯し,又は刑罰法令に触れる行為をするおそれがあると認められる少年)に区別されます。(検察庁のHPより)
【実情】
凄惨な事件の報道影響もあり、少年犯罪が増えている、最近の若者のは狂暴になった・・・・・と認識されている方もいると思いますが、実際はどうなっているのでしょうか?
数値が連続しますが、少年犯罪のデータを並べていきます。
参考:
~少年非行の動向と非行少年の処遇~
(PDF注意)
(少年犯罪関連はP28から)
●少年犯罪の検挙人数
少年による刑法犯の検挙人員の推移には,昭和26年の16万6,433人をピークとする第一の 波,39年の23万8,830人をピークとする第二の波,58年の31万7,438人をピークとする第 三の波という三つの大きな波が見られます。
八王子少年鑑別所が開設されたのも、昭和58年4月です。
ちょうどこの頃が暴走族等の集団非行等の多発もあり、戦後最大の検挙人数でした。
当時の状況を覚えている方もいらっしゃるのではないでしょうか?
全体を見ても昭和50年代後半から平成元年頃に掛けてが一番多い時期になっています。
昭和59年以降は,平成 7 年まで減少傾向にあり,その 後,若干の増減を経て,16年から毎年減少し続けており,25年は 9 万413人(前年比 10.6%減)となり,昭和21年以降初めて10万人を下回りました。
平成26年度の検挙人数は9万413名です。
●人口比
10歳以上の少年10万人当たりの人口比についても,平成16年 から毎年低下し,25年は,763.8となり、
最も人口比の高かった昭和 56年(1,721.7)の半分以下になっています。
少年約120~130人に一人となります。これは多いのでしょうか?少ないのでしょうか?
26年度の検挙人数9万413名中、鑑別所に入所された人数は1万1491名です。
八王子少年鑑別所は約400名。一日平均で20名の少年が入所しています。
●年代・男女の特徴
全体では窃盗が34.6、自動車運転過失致死傷が19.5、道交法違反が18.0、横領背任が9.0、傷害が5.0となっており、年少~年長と年齢層が上がるごとに、人数も増えていきます。
年長少年が全体の半分近いくいます。
・年少少年(14以上26未満):約6割が窃盗、横領、傷害に続きます。
・中間少年(16以上18未満):約45%が窃盗、道交法違反が約20%と年少少年に比べて4倍近く割合が増える、傷害がそのあとに続きます。
・年長少年(18以上):約4割が自動車運転過失致死傷等になる。道交法違反が約25%と続き、窃盗が約15%と割合は後退。この年代だとオレオレ詐欺のような、詐欺罪も目立ってきます。
●特別法※犯少年の割合
罪名別に見ると,昭和50年代から薬物 犯罪が特別法犯の大半を占めていましたが,平成18年以降は,薬物犯罪より軽犯罪法違反の人員 が多くなっています。
※刑法以外の犯罪を犯した14歳以上20歳未満の少年。覚せい剤取締法違反、道交法違反、売春防止法違反等。
・全体の男女割合はだいたい6:1
女子は年少、中間ではぐ犯少年が多く、これは男性には見られない傾向です。
罪を犯した成人や少年との付き合いがある場合、家庭環境等に問題がある場合が多い。
ぐ犯少年の女子比は全体の約43%とかなり高い割合。女子はすべての年代で、暴行・傷害が窃盗以上の割合を出しており、これも男子には見られない傾向です。
●日本語をしゃべれない少年への対応
通訳を手配。府中刑務所には国際対策室があり、そこに翻訳・通訳者が配置されている。そちらとの協力も行っている。
●少子化の影響
収容される少年数の減少も伴い、体育館の解放等、地域との連携、施設開放も行われ始めている。
●H29年度には昭島市に移転予定。医療施設の統合、集積なども視野にある。
●いじめの増加
警察において取り扱ったいじめに起因する事件の事件数及び検挙・補導人員の推移(昭和 59年以降)を見ると、昭和60年をピーク(638件,1,950人) として63年まで大きく減少した後,若干の増減はあるもののほぼ横ばいで推移していましたが、平成24年からは増加に転じ,25年は410件(前年比150件増),724人(前年比213人増) でした。
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ここまで、少年犯罪の状況について、書かせて頂きましたが少年鑑別所は罰を与えるための場所ではありません。
あくまで、更生、適切な処置・ケア、支援によって、再び社会に少年たちを送り出す場所であります。
●更生の必要性
更生は更に生きると書きます。
その為には何が必要でしょうか?
鑑別所内で少年たちはケアを受ける事が出来ます。
7時に起き21時には寝る、3食付きの規則的な生活も送れます。
少年院と違って、髪型等、そこまでキツい制約もありません。
それで充分なのでしょうか?
鑑別所の後に見学をさせて頂いた、NPO法人育て上げネットさんが行っているような、学習支援や就労支援のような支援も希望者は受ける事が出来ます。
最近ではネットリテラシー教育も行われ、ソーシャルビジネス支援も考えられているそうです。
ついつい、懲罰や所内の生活に目が行きがちですが、多くの場合、少年たちにとっては鑑別所を出た後の人生の方が長く、社会とのかかわり合い、経済・生活基盤についての支援も必要になってきます。
●個人ではなく、社会
全てがイコールではありませんが、罪を犯してしまう少年たちの中には被害に遭っている、虐待や劣悪な家庭環境等に置かれた少年たちも少なくはなく、そうした事を考えれば、
鑑別所に入っている数週間以上に、彼らは一般の家庭で育った少年たちが得ている様々な機会を失っていると考える事もできます。
近隣から孤立してしまう家庭も、触法、犯罪少年の家庭には多くあり、孤立を放置した社会にも責任はあります。
これから自立していく少年たちを、社会も見守っていかなければなりません。
●地域社会における非行・犯罪防止に関する支援
地域での受け入れ、生活相談、就労や学習支援、コミュニケーション支援などの様々な支援、国では総合対策として打たれています。
社会における居場所と生活の確保についても、しっかりと考えていかなけばなりません。
平成24年7月20日に策定された国の再犯防止向けた総合対策では、10年間の取組における数値目標として、「刑務所出所後2年以内に再び刑務所に入所する者等の割合を今後10年間で20%以上削減する」ことが掲げられました。
この総合対策自体は、少年、成人を問わない施作ではありますが、従前の刑務所出所者等の再犯防止に向けた当面の取組にはない【少年、若年者、初入者】への支援策が新たに明記されております。
少年、若年者、初入者には、個々が抱える問題等に応じた指導・支援等が必要との上で、住居の確保、就労の確保、社会貢献、参加活動推進、犯罪被害者に関連した指導、満期釈放者に対する支援が上げられています。
【再犯をどう防ぐか】
全体のデーターではありますが、犯罪を犯した者の、約3割が再び犯罪を犯しており、全体の犯罪における再犯者の割合は約6割となっています。
入所二度の者の5年以内の再犯率は初入所よりも2倍近い数字となっており、再入者のうち、前回出所時に適当な帰住先がなかったものの6割が犯罪を起こしています。
保護観察中に無職だったものの再犯率は有職者の約5倍と、社会の包容力の弱さ、社会復帰支援策の弱さが再び犯罪を産む連鎖を起こしており、犯罪を減らすためには、いかに再犯を減らすかも必要になります。
●入浴
入浴は予算の関係で週二回、夏の時期はそれ以外はシャワーを浴びるそうです。このあたりは少し増やして頂いても良いんじゃないかと思うのですが・・・どうなんでしょう?
●加害少年への心の援助について
加害少年は言語能力に乏しい少年も多く、自尊心、自己肯定感の著しく低い少年も多くいます。
大人への不信感を持った少年も少なくなく、体温を測ってあげただけで「こんなに心配して貰ったのは初めて」とこぼす少年もいたそうです。
「犯罪者」としてみるのではなく、心の傷と共に生きる事の大変さ、困難さを抱えた少年達である事も私達は認識していかなればなりません。
●まとめ
加害者に対してまず罰があるべきだ、更生より償いが先だ!
という社会感情は私も理解できます。
先日の川崎での悲惨な事件等、人を人とも思わぬ事件は現実に起きています。
一方で、少年犯罪の大変が凶悪犯罪である・・・というような事は無く、
加害少年には困難を抱えた方も多くおり、個人だけの責任で片づけられない事も多くあります。
家に帰るよりも鑑別所の方が環境が良い・・・という少年もいるそうです。
更生保護が必要な若者への支援については、社会体制も未だ充分とは言えません。
懲罰感情から一歩引いて、更生保護をどう考えるか、少年たちを排除せずにどう社会が地域が彼ら彼女等を受け入れていくか、
私達大人は真剣に考えていかなければなりません。
被害者、加害者、双方の家族。
それぞれが違う苦しみ、生きづらさを抱えています。
それを少しでも緩和できる社会にするにはどうすればいいか。
皆様と一緒に考えていきたいと思います。