Jul 7, 2018

やらない善より、まず手を。大田区の自殺対策の現状

大田区議会議員のおぎの稔です。本日は予算特別委員会で質問をした大田区の自殺対策についてです。自分自身、子どもの頃、そして昨年2度にわたり家族を自殺で失った自死遺族である事からも、自殺対策については折に触れて、大田区議会で質問を重ねてきました。予算の中でも自殺について質問し、問題提起も行いましたので、ご報告いたします。

 

漫画の詳細は→政策マンガ第8弾 自死遺族支援編

 

 

 今回の質疑の中では、予算書において今までは「精神保健福祉」としか計上がされておらず、個別に記載がなかった自殺対策が、平成30年度予算では「自殺総合対策」と記載がされたことについて、大田区が自殺対策をしっかりと進めていこうとする意志である事を評価しました。これは昨年予算書で自殺の文字の記載が無かったことに忸怩たる思いをしていた私にとっても嬉しい出来事となりました。

 続いて、自殺対策基本法改正により、地域ごとの計画策定が求められている現在、大田区はどのように区内の自殺の特徴を把握している事を質問。「年間100名を超える自殺者を出しているが、傾向としては減少している」としたうえで「中高年の男性の自殺が依然として多い事、また10-20代の若者の死亡数がやや増加傾向にある事などが課題である」と返答を頂きました。若者の自殺対策強化については、全国的に喫緊の課題であると思います。

 

 また、今回の質疑の中で取り上げた「若年層自殺実態把握調査報告書」。自殺既遂者の遺族や未遂者、その家族等に対して東京都が行った調査をまとめたものとなっていますが、未遂者に対し自殺未遂直後に「死ななかったと気づいた時どう思ったか」を聞いたところ、死ねなかったことを後悔する声が最も多く、次いで「死ねないものなんだな」という受容的な回答だったとあります。自殺を決意していた直後だったので、そうした結果が出るのも仕方がないのかもしれません。しかし、そこから時間の経過した後に、「現在は、どう思っているか」との問いに対しては、死ななかったことを肯定的に受け止めている声が最も多く、半数にのぼったそうです。

 適切な支援や相談相手を得たり、置かれている困難から解放されたりすれば、死ななくてよかったと肯定的に考える人が多いという事は、すなわち適切な支援、信頼できる相談相手の確保によって自ら死を選ぶ人を減らせることを示唆しています。この事実は、自殺対策に取りくむ者にとって救いのある調査結果であるといえないでしょうか?

「やらない善より、やる偽善」という言葉がマンガ鋼の錬金術師の中で使われていました。

また、ひぐらしのなく頃にという作品では「あなたの親は、あなたが赤信号の横断歩道の真ん中にいる時、どうして危ないのかを全部説明し終えるまで、あなたの手を引っ張らないの?引っ張るでしょう?まず歩道まで連れ戻してから、なぜ危険なのかを説くでしょう?」というセリフもありました。

今、自殺を考えている人でも、生き続けてくれさえいれば将来はどう考えが変化するかはわかりません。今後も、自殺対策や自死遺族支援を訴えていきます!

質疑・答弁は以下をご覧ください。

 

【質疑】

 続きまして、健康プラン関連について会派としても予算要望を行った自殺対策についてお聞きします。3月は自殺対策強化月間です、私も昨日、蒲田駅前ではねぴょんが活動をしているのをみかけました。さて、30年度予算では、自殺対策について29年度との違いがみられましたのをご存知でしょうか?
平成29年度事項別明細書では、「自殺」対策については記載がなく、関係するのは、精神保険福祉相談の項目にある、予算額は584万円の部分であり、説明部分に「自殺」の文字の記載はございませんでした。

 平成30年度の事項別明細書、177ページをご覧ください。
今年度の事項別明細書には、「精神保健福祉相談」の中に、自殺総合対策の項目の記載があり、130万5千円の予算が計上されております。

質問します。今年度はなぜ、自殺総合対策についての記載が行われたのでしょうか?①

 

答弁 概要①】

区はこれまでもひとりひとりの状況に応じた、相談、自殺予防に関する啓発 身近な人の自殺サインに築き支援に繋げるゲートキーパーの養成研修などに取り組んで参りました。平成30年度においてはだれも自殺に追い込まれることのない社会の実現に向け大田区として大田区自殺対策計画を策定すると共に、地域の実情に応じた効果的な対策をこれまで以上に講じていくなど自殺対策の強化を図る事から、予算事項別明細書上の項目をわけたものでございます。

 

【質疑②】

 大田区の自殺対策計画策定においては、大田区の実態、特徴を把握することが必要になります。大田区は自殺総合対策協議会を開催するなど、自殺対策のための情報収集や議論を重ねてきました。計画策定に向けて大田区内の自殺の特徴や傾向等があればお答えください。②

 

【答弁②】

大田区の自殺者数については平成24年は131人、平成28年は117人であり、依然として年間100人を超えてはいるものの、減少傾向となっております。

また平成28年までの5年間の合計数で性別・年代別に見ますと、性別では男性が約7割、年代別では40歳代が20%、50歳代が18%であるなど、中高年の男性が多い現状です。ただし、中高年の男性の自殺の死亡率は減少傾向にあります。

 一方、10代及び20代における自殺による死亡数はやや増加傾向にある上、10代から30代の死亡の第一位は自殺であることなど、若年層への自殺対策が大きな課題となっております。

 

【質疑③】

 特徴にも挙げられた、若者の自殺について伺います。自殺対策基本法は、2006年10月に施行、2016年に改正されました。関係する様々な機関や民間の方々のご尽力により、日本全国で一時年間3万人を超えていた年間の自殺者数は減少傾向が続いています。自殺者の大きなボリュームゾーンを占めていた中高年層が、全体の比率の中でも減少をしてきた事は望ましい事ではありますが、全国、大田区の特徴として若者の自殺は減少せず、大きな課題となっております。
 自殺既遂者の遺族や未遂者、その家族等に対して東京都が行った調査をまとめた「若年層自殺実態把握調査報告書」によると、自殺企図に至る前に何らかの相談をしていた人は、全体の 84.9%に上る45 人、そのうち、企図の1か月以内に何らかの相談をしていた人は 31 人、全体の 58.5%でした。一度は相談しようとしたものの、企図までの1か月以内に相談行動をとらなかった理由としては、「周囲の大人への不信感」「ひきこもりの状態にあり、自殺企図の前は支援者とつながりにくい状態だった」、「本人の病識がなく、定期的な受診ができていない状態だった」等があるとの事でした。
 未遂者に対し、自殺未遂直後に、「死ななかった」と気づいた時、どう思ったかを聞いたところ、死ねなかったことを後悔する声が最も多く、次いで、「死ねないものなんだな」という受容的な回答だったとありますが、それから時間のたった「現在は、どう思っているか」との問いに対しては、死ななかったことを肯定的に受け止めている声が最も多く、半数にのぼったそうです。

 適切な支援や相談相手を得たり、置かれている困難から解放されたりすれば、死ななくてよかったと肯定的に考える人が多いという事は、すなわち適切な支援、信頼できる相談相手の確保によって自ら死を選ぶ人を減らせることを示唆しています。この事実は、自殺対策に取りくむ者にとって、本当に救いのある調査結果であるといえます。
 さて、若者の自殺について考えた時、社会経験の浅い若者は、地域や行政の相談機関とのつながりも薄く、啓発や支援の手が届きにくい傾向にあるのと予想できます。
2月16日の朝日新聞によると、足立区ではインターネットゲートキーパーという事業を予算に盛り込んだことが報道をされました。政府も無料通信アプリ「LINE」などを使ったSNSでの自殺相談事業を3月から開始をしました。では、本区は平成30年度、どのような対策を行いますか?お答えください。③

【答弁④】

委員お話の通り、若者の自殺率が減少していない現状を踏まえ、若者に対する自殺対策を強化する必要がございます。

このため、平成30年度においては新たに区内の大学と連携し、学生向けに心の健康づくりやゲートキーパーに関する講座を開催するとともに、今後の対策の参考とする学生に対しての意識調査を行うほか、学生自身による討議の場を設ける予定でございます。あわせて、各種相談窓口やゲートキーパーの役割について区報だけでなく、若者により身近なSNSを活用し、広く周知するなど、若者に対する普及啓発を充実してまいります。

 

【質疑④】

 関連して、精神疾患について伺います。
 自殺対策基本法や自殺総合対策大綱においても指摘されているとおり、自殺には多様かつ複合的な原因・背景がありますが、厚生労働省の自殺対策白書によれば、自殺の中でも、「病気の悩み・影響(うつ病)」を原因・動機とする自殺は、減少傾向にあるものの「健康問題」の中で最も多く、平成27年においては、原因・動機が特定されている自殺の約3割を占めています。
 自殺そのものだけではなく、見た目でも判別がしづらく、うつ病や精神疾患などは、周囲になじめず、挫折感、自尊感情の低下などを生み、引きこもりや精神疾患の重篤化、併発など様々な要因を生んでいきます。
 文部科学省の「子供の自殺等の実態分析」によると、中高生の児童生徒の自殺が大きく学校的背景、家庭的背景、個人的背景と分けられる中で、個人的背景に属する精神科通院歴をもった方が13.5%。

 内閣府・警察庁の「自殺統計」でも、遺書などから判断できる要因として精神疾患にかかる、うつ、統合失調症、その他精神疾患は全体の15.6%です。

 複数の省庁がそれぞれ行った調査でも自殺と精神疾患が切っても切り離せない課題であることは明らかになっています。
 さて、昨年末、大阪府寝屋川市の民家で、衰弱死していた33歳の女性が発見された、痛ましい事件があったことは、記憶にも新しいことと思います。精神疾患にかかっていたとされるこの女性は15年以上にわたって家族の住む家の敷地内に監禁されていました。疾患名は統合失調症だったとの報道もあります。同級生が「異変」に気づき何度も担任に訴えていたともされており、再発防止策と共に、精神疾患への理解と偏見が入り混じっている昨今、社会の様々な場面で、適切な相談、啓発、情報提供体制の整備の必要性が認識されました。
 私も「もっと子供の頃に自分の特性を理解していたら、違った人生があったかもしれない。」という当事者のお話を何度もお聞ききします。早い段階で自身の特性を受け入れ、理解する事が必要です。精神疾患の早期理解について見解をお示しください④

【答弁④】

区はこれまでも個別に保健師による健康相談や、精神科医師による専門相談を実施すると共に、精神疾患についての正しい知識の普及啓発を行ってきたところです。統合失調症やうつ病などの精神疾患についてはだれでもかかりうるものです。発症予防や重症化予防、社会復帰の観点から早期発見、早期治療、並びに治療の継続が大切です。また思春期は精神疾患を発症しやすい年代である事から、若者やその周辺の人への啓発が特に重要と考えています。

このため、平成30年度においてはこれまでの取組に加え若者、保護者、及び教員を主な対象に精神疾患の早期発見・早期治療をテーマとする講演会を実施いたします。

 

【質疑⑤】

また、この事件が明らかにした事からも伺いますが、大田区は長期にわたって、本人と連絡の取れない児童生徒に対してどのような対応を行っていますか?お答え下さい。⑤

 

【答弁⑤】

まず区立小中学校に在籍する長期欠席の児童生徒につきましては学級担任を始め、校長、副校長、学年主任、生活指導主任、養護教諭、スクールカウンセラーがチームで本人や家庭と連絡や面談を行って解決を図るほか、必要に応じて、スクールソーシャルワーカーが家庭訪問を行っており、全てのケースについて把握が出来ております。

住民登録があっても区立小中学校に就学しない児童生徒につきましては、文書・電話による照会、自宅訪問および関係機関への照会により、確認をおこなっています。

 

このうち、小学校未就学年齢児におきましては、多くが住民登録を残したまま、海外転出をした児童であり、入国管理局の協力が得られるようになった平成26年度以降は全ての児童の状況が確認できております。また、中学校就学においてはほとんどが私立中学校に入学する場合に必要な教育委員会への届け出を怠っているケースである事が判明しておりますが、繰り返し働きかけを行ってもご連絡いただけないケースが僅かにございます。

今後は中学生に向けましても全件把握にむけて更に取り組むを強化し、問題があるケースが発見された場合は医療機関等にしっかりと繋げてまいりたいとこのように考えております。

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予算特別委員会の質疑はこちら→https://ogino.link/2018/03/5594/

自殺対策・自死持続支援についての政策マンガはこちら→https://ogino.link/2016/03/2755/

 

 

〇関連ブログ

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【記事紹介】自死遺族の1人として自殺対策に取り組む、荻野稔 大田区議からの寄稿

自死遺族の一人として区長に大田区の対策前進を訴えました。

 

第二回定例会 会派を代表しての質問でも区長に自殺対策について質問しました。→https://ogino.link/2018/06/6036/

 

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